小室哲哉は日本のポピュラーミュージックの、或ることに変化をもたらした。
それは「ウォウウォウ」のコモディティ化である。
少なくとも私の音楽史にはそう書いてある。
確認のためにネット検索したら、このような記事に当たった。
「ウォウウォウ♪」といえばモー娘？長渕？ マイ「Wow歌手」で熱い議論
ネット上ではいま、このフレーズを聞いて思い浮かべる歌手をめぐって、熱い議論が巻き起こっている。
十人十色の答えに
読売新聞が主催するQ&Aサイト「発言小町」で2017年10月26日、
「ウォウウォウウォウ、と歌う歌手といったら？」
といったスレッドが立った。
投稿主の女性（47）はある日、自身が好きな歌手を夫（43）に伝えたという。すると、「あの、ウォウウォウウォウと歌う人？」との答えが返ってきた。投稿主としては記憶に全くなく、「違うよ、そう歌うのは○○さんでしょ？」と、堂々巡りが続いたという。
レス（返信）をみると、11月6日時点で190ちかく寄せられており、十人十色の答えがあがっている。
Wow界の御三家
比較的若いと思われるユーザーからは、
「BABYMETAL」「ONE OK ROCK」「BUMP OF CHICKEN」「モーニング娘。」「絢香」「Every Little Thing」
などがあがった。
BABYMETALの『Road of Resistance』は、「wow」が主役といっても過言ではない曲だ。歌詞には「wow」が15回登場し、それとは別にwowを連呼する間奏パートがある。
それ以降の世代では、
「米米CLUB」「LINDBERG」「BARBEE BOYS」「TUBE」「HOUND DOG」
など日本のロックを代表する人気バンドが中心を占めた。
J-CASTトレンド編集部が調べたところ、スレッド内で多くの「票」を集めたのは、「浜田省吾」「世良公則（TWIST）「長渕剛」の3人だ（6日現在）。
浜田省吾さんは、『悲しみは雪のように』『こんな気持のまま』など、歌詞に「wow」が登場する曲を10曲以上も持つ。
世良公則さんは、wowの歌いだしで始まる『性 サガ』が印象的だという人が多かった。長渕剛さんは、力強い「wow」が響く代表曲『とんぼ』の存在とともに、長淵さん自身の「男らしくチョイ悪」なイメージから連想したという人も少なくなかった。＜J-CASTトレンド＞
この記事に挙げられたウォーティストソングをいくつか年代順に並べてみよう。
どうだろうか、それぞれの「ウォウウォウ」が浮かぶだろうか。（厳密には「ウォォ」「オォゥ」「ウォウオォ」などが混在しているが、そこはウォウ目に見て欲しい。）
1978年 ツイスト（世良公則&ツイスト）『性』
※1981年 浜田省吾『悲しみは雪のように』※初リリース年
※1987年 米米CLUB『浪漫飛行』※アルバム収録
1988年 長渕剛『とんぼ』
（1990年 米米CLUB『浪漫飛行』シングル盤リリース）
1990年 LINDBERG『今すぐKiss Me』
（1992年 浜田省吾『悲しみは雪のように』ドラマ主題歌として再リリース）
1998年 Every Little Thing『Time goes by』
1999年 モーニング娘。『LOVEマシーン』
2001年 BUMP OF CHICKEN『天体観測』
2006年 絢香『I Believe』
2014年 ONE OK ROCK『Mighty Long Fall』
2015年 BABYMETAL『Road of Resistance』
TM NETWORKも小室哲哉（の作品）もないが、話を進める。
「ウォウウォウ」とは何だろうか。年表に沿って考えてみよう。
まずは『性』を聴いて欲しい。
痛いほど魂の込められた叫び、そして歌い手の強烈な個性を同時に表している。当事者のウォウウォウ、刹那のウォウウォウである。
続いて、浜田省吾の『悲しみは雪のように』（を歌う人）を聴いて欲しい。
文法的には「擬声語」（「擬情語」でも良いかも知れない）ということになるのだろう。ウォウウォウは“泣いてる”にかかっているのだろうが、特定の誰かではなく、不器用に生きる人たち全てに向けられたウォウウォウではないだろうか。
次は、長渕剛『とんぼ』（を歌う人）である。
この曲のウォウウォウはどこにかかっているのだろう。おそらく、特定の言葉ではなく、曲全体の雰囲気を表現している。イントロのウォウウォウでこの曲の全てを語ったに等しい。シンボルとしてのウォウウォウと言えるかも知れない。
さて、これらの３曲。順に「ウォウウォウ」が一般の人々に解放されていく感じがしないだろうか。
『性』のウォウウォウは、“ロックンローラー”世良公則によるところが大きい。あなたには他の人が歌うウォウウォウが想像できるだろうか。私にはできない。
『悲しみは雪のように』のウォウウォウには、世良公則のような野性的な男らしさではなく、洗練された都会的な男らしさがある。二次会のカラオケなどで彼の曲を歌う人も多いかも知れないが、この曲に限らず彼の曲は、聴く者から“浜田省吾”らしさが求められる。決して軽いノリで歌ってはならない。ある程度、歌う者を選ぶのだ。
『とんぼ』のウォウウォウは、合言葉。言わば、みんなのウォウウォウである。想像して欲しい。長渕剛が煽り、ファン達が一斉に応える、地鳴りのようなウォウウォウを。その中に清原和博がいてもいいだろう。
歌詞本体は「♪コツコツとアスファルトに～」から始まるのであるが、歌い手に関係なくここで盛り下がることのほうが多い。（※個人の感想）
そしてもうひとつ。
これら3曲は、それぞれ「ウォウウォウ」でなければ成立しない。「ワーワー」や「オイオイ」「ラララ」などでは、心の底から湧き出る負の“情念”のようなものを表現できないからである。
ここで、年表を振り返って欲しい。
90年代に入ると、ウォウウォウから良くも悪くも“個性”が薄れ、「とりあえずウォウウォウ」とでも呼ぶべき状況が進んでいく。
まずは、LINDBERG『今すぐKiss Me』を聴いて欲しい。（このMusic Videoは2009年再結成後のものと思われる）
同年ヒットした米米CLUBの『浪漫飛行』にも言えることだが、ウォウウォウが曲を印象づけるスパイス的な使われ方をしている。あればいいが、なければないで成立する。おでんにカラシ、ピザにタバスコである。
また、それまでのウォウウォウに含まれていた“人生の機微”のような「重み」がなくなり、良く言えば「ポジティブ」、悪く言えば「軽薄」なものになっていく。
その代表曲と言っても良いのが、モーニング娘。の『LOVEマシーン』である。
この曲のウォウウォウは、主客を選ばない。誰が歌ってもいいのだ。
それがウォウウォウである必然性もない。オイオイでもワオワオでも問題ないだろう。
必要なのはノリ。今晩のおかずはノリである。1999年9月9日というシングル盤の発売日からもそう感じざるを得ない。
存在感はあるが、言葉としての中身（意味）は、ほぼない。感覚としては、民謡の「合の手」に近いだろうか。♪チョイナチョイナ、♪ヨイヨイのような。
ちなみに、90年代の後半に入るとカラオケブームに陰りが見られるようになるのだが、この曲の無理強いとも思える「底抜け脱線ポジティブテイスト」は、現実を認めたくない者たちの“あがき”のようである。
もちろん考え過ぎである。
さて、00年代に入る。
BUMP OF CHICKEN『天体観測』を聴いてみよう。
望遠鏡で見ないとわからないくらい小さいウォウウォウである。
絢香の『I Believe』はどうだろうか。
こちらは、大きなウォウウォウを繰り出しているが、間を埋めるために使われているようにも聞こえる。校長先生が話の始めに繰り出す「えー」に近い。聴く者からすれば要らないが、本人としては使わずにはいられない、そんなウォウウォウ。
校長先生の喩えは不適切だったかも知れないので、民謡の「♪ハァ～」に近いと訂正する。そしておかずからノリは消えた。
最後に、現在（2018年）に一番近い曲、冒頭に引用した記事で紹介されていたBABYMETALの『Road of Resistance』を聴いてみよう。（ピーター・バラカン先生は聴かなくてもけっこうです。）
BABYMETAL - Road of Resistance - Live in Japan (OFFICIAL)
これは、表面上はかつての“熱きウォウウォウ”の復権のようにも見えるが、実際は野郎どもを操るためのギミックウォウウォウである。「撒き餌」と言ってもよいだろう。会場を埋め尽くすのは、釣り人が撒いたアミエビに群がる小アジの群れ…
「愚かなりし、ウォウウォウ共よ。」
しかし、そうやって見る夢もまたよいだろう。
それもまた、人の「性」というものだ。
今年でツイスト『性』から40年。“言霊”としてのウォウウォウは、その「絶対性」が失われるのと引き換えに、様々な“縛り”から解放され、我々にとってより身近な存在になった。ウォウウォウの「コモディティ化」である。
そして、その流れを決定づけた者が、小室哲哉（TM NETWORK）なのである。（続く）
