TM NETWORK考【4】(鎮まれ)

 前回、ウォウウォウの「コモディティ化」について書いたのは、覚えたての「コモディティ」という言葉を使いたかっただけである。本当に伝えたいことは、他にある。

 それは、TM NETWORKのウォウウォウが一番好きだということである。

 正確には、宇都宮隆のウォウウォウが一番好きだ。

 

 TM NETWORKを多少聴き込んだ者なら皆知っていることではあるが、彼の英語の発音は、ネイティブに近い。

 ただし、ネイティブ・ジャパニーズイングリッシュである。

 もし彼がヒアリングテストの出題者なら、私はデイブ・スペクター氏より高得点を取る自信がある。それくらい、歌詞が聴き取りやすいのだ。

 世の中にはカッコつけて何を言ってるのかよくわからない人がたくさんいるが、相手に伝わらなければ、ただの自己満足に過ぎない。

 誤魔化さず、真っ直ぐ、わかりやすく伝える。それが声で言葉(意志)を届ける「ボーカリスト」としての最低条件ではないだろうか。本来、生きた言葉に字幕はないのだ。

 …と、何やら名言めいたことを言っているようで、実はよくわからないことを言って富を築くのが私の夢である。

 

 話を宇都宮隆に戻す。

 彼のボーカルの特徴をもうひとつ挙げるならば、「あいうえお」が「あいうえ“ウォ”」になることである。ウォウウォウの申し子である。

 私の尊敬する魚類学者さかなクンの「がぎぐげご」が「がぎぐげ“ギョ”」であるように、世の中にはそのために生まれてきたような人が存在するのであろう。

 ちなみに、さかなクンのお絵かきしながらのお魚談義は、至極の「インプロビゼーション」と言っても過言ではない。


「さかなクンのお魚図鑑(4)~ケンサキイカ編~」

 

 小室哲哉の曲は、インプロビゼーションとは真逆の「打ち込み」中心のイメージが強いが、私がTM NETWORKの曲で最も好きなウォウウォウな曲、1986年にリリースされた『Come on Let's Dance』を聴いて欲しい。

 (できれば前回書いた年表に当てはめて聴いて欲しい)


Come on Lets Dance(FANKS DYNA-MIX).wmv

 私がこの曲を初めて聴いたのが、シングルバージョン (This is the FANKS DYNA-MIX)だったのかアルバムバージョンだったのか定かではないが、曲中にすごいサックスソロが入っていたのを覚えている。

 当時は、それ以上のことを知ろうともしなかったのだが、Wikipediaによると、現在も活動しているアメリカのファンクバンド「Tower Of Power」のLenny Pickett元メンバーの仕事であったとのこと。さすがである。

 映像中の黒いお茶目なタキシードスーツ姿、何かやらかしそうな感いっぱいの彼がLenny Pickettである。


Tower of Power - Live at Soundstage Chicago 1977

 80年代は、Tower Of Power(というかファンク全般?)不遇の時代だったようだが、自分たちの音楽に新しい要素(=FANKS)を取り入れようとしていた小室哲哉にとって、Lenny Pickettの参加は、ある意味幸せな時代だったと言えるのかも知れない。

 ちなみに、先のTM NETWORKのライブ映像(1986年)を見て気付いた人もいるかも知れないが、Lenny Pickett的なファンキーサックスは入っていない。しかし、この頃はサポートギターに後のB'z松本孝弘が入っていることもあるのか、物足りない感じはあまりしない。ウォウウォウも正確で絶好調である。

 私は田舎生まれでライブ(ハウス)というものを知らずに育ったのだが、この時会場で観客のひとりとしてTM NETWORKと一緒にカモンレッツ・ダンスでウォウウォウしながら踊り狂っていたら、今頃は都会の片隅にうずくまってウォウウォウ泣いている人生を送っていたかも知れない。「飛び出すな 横断歩道と生まれ故郷」である。

 

 さて、突然発症して書き始めたTMNETWORK考であるが、次回で終わりにしたい。

 さすがに一生懸命書き過ぎで自分で自分のことが心配になってきたのである。(続く)