「…好きや。」
だったか、もっと軽い調子だったか、もう言い回しは忘れたが、私は酔った(勝利の)勢いもあって、いち子に告白をした。
彼女のわがままな言動も、読めない行動も好きだったし、何より一緒にいて楽しかった。彼女も私との居心地の良さを感じていると信じていた。ただ、当時の私は、男は女に負けてはいけないみたいな考えがあった。それは、精神的に優位に立ちたいという現れだったのだろう。だから、告白はいち子を酒で負かしてからでなければならなかったのだ。バカ。
いち子の答えは冷静だった。
「へたっちょは、酔ってるからそんなこと言うんやん。」
「そんなことないって!」
何度言っても彼女にかわされるだけだった。確かに酔っているけれど、これは前から決めていたことだし、決して嘘じゃないのに。
私は、フラれたのだろうか。いや、違う。
いち子は、私の告白の仕方が気に入らなかったのだ。いつもとちょっと違う夜のへたっちょへの照れもあっただろう。私は知っていた。普段、強がってはいるが、彼女にもそういう可愛いらしいところがあるのだ。
後日、バイトで彼女と一緒のシフトに入った時、私はいち子を厨房に呼んだ。
「いち子、今日はちゃんと素面やから、、、」
そして、2度目の告白をした。
キミはこれを待っていたんだろう?
「嬉しい。けど…」
「けど?」
「好きって言ってくれるのは嬉しいけど、付き合えへんわ。」
「…え?」
1度目の告白からの私は、心理学でいうところの「正常性バイアス」の状態だった。
そこから覚めた今、迫りくる現実に対応を迫られた。
必死になってダメな理由を聞いてみたりもしたけれど、どうなるものでもなかった。現実を認めるしかない。今は退け、退くのだ。
私は、自分の心のノートにあった「日本三大“おことわり”」(=いいひと・友だち・今のままでいよう)に新たにもうひとつ、
・好きって言ってくれて嬉しい
を加えた。
結果はフラれたけれど、この厨房でのやりとりを知らない人から見れば、離婚した後もコンビを解消しなかった「唄子・啓介」の夫婦漫才のように、しばらくの間、二人は何もなかったかのように過ごした。
恋愛に限らず、私は落ち込んでも家で一人酒はしない。代わりに音楽を聴いた。
特に眠れない夜には、布団に入り明かりを消し、静かにHolly Cole のアルバム『Girl Talk』を聴いた。何を歌っているのか、さっぱりわかってはいなかったが、私の子守唄アルバムだった。繰り返し聴いているうちに、気がつけば時計が随分と進んでいたときのことは今も忘れない。
さて、酒と泪はこれくらいにして。
ここからがアセトアルデヒドだ。
(続く)
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参考1)
この曲を聴いて、声を聞きたくなった人のことをあなたは愛しています。
知らんけど。
参考2)
これは再発盤。(※Calling Youは別アルバム『Blame It On My Youth』に収録)
- アーティスト: ホリー・コール,デビッド・ビルチ,アーロン・デイビス
- 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
- 発売日: 2000/12/06
- メディア: CD
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