土俵の外に円を描くヤツは誰だ

 前回、トランプ大統領の大相撲観戦について軽めに書きました。しかし、テレビ中継を見ているうちに事態はけっこう深刻なのではないかと思うようになり、今回はしっかりめに書きます。

 トランプ大統領については、清々しいほどにトランプ大統領でした。

        ーおわりー

 

 観ていて恐かったのは、周りの反応です。

 トランプ大統領夫妻と安倍首相夫妻入場の際、場内の人々が「わしも!」「わしも!」と次々に立ち上がり、腕をいっぱいに伸ばして両夫妻にスマホやカメラを向ける光景は、保釈されて出てくるケンタウロスを狙うフラッシュの瀧のようでした。

 わしも、、じゃなくて、私も釣られてTV画面にレンズを向けかけましたが、思いとどまりました。あの場にいたら同調しない自信はありません。

 早くから中継を観ていたのでわかるのですが、当日は入場者のセキュリティチェックに時間がかかったそうで、「幕内」になっても場内には空席が目立っていました。国技館の外は記録的な暑さ、長時間待たされたうえに、お目当ての取組に間に合わなかった人もいたでしょう。早めに会場入りできたとしても、両夫妻が来ることで進行が変わったり、厳重な警備によって雰囲気を壊されたと感じた人もいたはずです。事前の世論が、枡席での観戦には否定的だったのも当然ですね。

 ところが、蓋を開けてみれば、まるでハロウィンの渋谷スクランブル交差点のような騒ぎ。スプーン一杯で驚きの白さです。

 少し落ち着きを取り戻し、ようやく取組が再開される際には、両夫妻を立ってガードしていたSPさん達に向かって、「すーわーれ!」のコールが観客の一部から起きました。やっぱり言いやすい人には言う人たちってどこにでもいますね。

 

 なんだかんだで千秋楽の取組は無事に終わり、続く表彰式で気付いたことは、

 ① 大統領杯デカい(天皇賜杯よりも内閣総理大臣杯よりも)

 ② 表彰状英語&片手渡し

 ③ 土俵から降りない首相

 ④ スリッパ黒色

 ⑤ 土俵への特製階段初登場

です。 

 ①②は、古代アメリカ式だから仕方ないとして、③は、自分の表彰が終われば速やかに一旦降りるのが常識でしょう。④は外見は皮靴みたいで、履き心地はフカフカそうでした。⑤は、寸法ピッタリ、持ち運びやすい配慮もあって熟練の技を感じさせました。

 それにしても、これまで大相撲協会が守ってきた伝統や格式とは、いったい何だったんだろう、、というよりも、それらを事実上壊したのが日本国首相だなんて。首相というのは土俵の上で感動したり、ぶっ壊したくなる性分なのでしょうか。

 

 表彰式も終わり、両夫妻のご退場。その際に、観客と会話や握手を交わす場面がありました。これは、後から詳しく知ったのですが、ある著名な評論家とジャーナリストが警備や進行を顧みず、大統領に握手を求めに行ったり、その二人を高いお金払って招待したのは自分であると自らツイートするノンフィクション作家がいたりで、なかなかの美しい光景でした。

 土俵に最も近い「溜席(砂かぶり)」には、大相撲中継ではあまり見かけない政治家の方々もいましたし、今回は一部に「ごっつあんチケット」があったと見るのが自然でしょう。

 それにしても、これらのことが偶然と言ってのける人もアレですけれど、天下国家を他人の犠牲を前提にしか語れないアレがアレな人達に見守られて、いつも以上に気合の入る力士っているのでしょうか。

 これは邪推ですが、当日の取組編成がいつもと違う要領で行われたことや7勝7敗同士の顔合わせが多いように感じたのも、偶然ではないと思います。

 

 今回の両夫妻の枡席での観戦を機に、大相撲をもっと快適に楽しめる取り組みが進めば良かったのですが、どうやら現状では、来場所からチケット金額の改変があるくらいのようです。枡席に椅子席を作る話くらいはあっても良いのに。

 結局、今回のトランプ大統領の来日は、日本にとっての外交成果はなく、国内向けの政治的宣伝でしかなかったように見えました。

 そもそも、この「ゴルフ→大相撲→炉端焼」という、新時代・令和を全く感じさせないメニューは、内輪ノリのウケを狙った感が強く、トランプ大統領夫妻には響かなかったのではないでしょうか。

 全体的にメラニア夫人への気遣いのなさも気になりましたし、家族をアルコール依存症が原因で亡くし、酒もタバコもしないとされるトランプ大統領との夕食の場に、酒場でもある炉端焼店を選んだのは、きっと女子との初デートに吉野家を選ぶタイプの人です。

 お相手は大富豪で、天皇皇后との宮中晩餐会でも、本国から持参したコーラーを飲むような人ですよ?真面目な話、庶民派を印象づけたかったのなら、首相官邸でタコ焼きパーティーが良かったと思います。警備の負担が少なくて済みます!インスタ映えます!次回はぜひ「ゴルフ→歌舞伎→タコパ」でキメてください。

 私は、今回の件で首相を批判しているつもりはありません。ただ、もし今回の接待内容が、政府が大統領周辺を徹底的にリサーチした結果であり、交渉を日本の有利に導くと判断したからではなく、官邸周辺の思いつきをまんま実現することを目的としただけであったのなら、これはもう裸の王貞治、これ以上バットを降らせるわけにはいきません。

 やはり、後世まで敬愛されるような人は、しっかりと自分の姿を見ることができ、潮時を間違わない人であると思います。

 そーり、ご決断を。


バッティングフォームをチェックし合う長嶋茂雄と王貞治