バイト先の厨房でいち子に交際を断られた後、確かにフラれたショックはしばらくあったが、いち子との関係は変わらなかった。
これは決して、負け惜しみや強がりなどではない。バイト先の気の合う二人のままだった。どちらかが(まあ私だ)が、これ以上を欲しなければ、ずっと続くはずの関係だ。呼び名も“へたっちょ”のまま。
そうこうしているうちに、私にも後輩ができて、仕事を教えたりもするようになった。新しく年下の女の子が入ってきて、バイト先の年上の先輩のことを好きになるという話はありがちだけれど、私の後輩は男の子だった。
彼は、テニスが得意で体格が良く、カラオケではGLAYの『HOWEVER』を歌い上げるような男前はあなたでしたFuuuuuU!
そして、ひとりっ子だったせいか、やがて彼は私のことを兄のように慕ってくれるようになった。
バイト先のシフトは、彼と私といち子の3人が一緒になることが多かった。彼は、仕事を覚えるのが早く、なかなか頼れる後輩だった。私といち子の仲もよく理解していた。今でも、この頃のトリオは最高の取り合わせだったと思う。
しかし、バンドなどにもよくある話だが、男2人に女1人のパターンは、いったん恋愛要素が絡んでくると、それまでの関係性が変わってしまうものである。
後から入ってきた彼のことを、いち子が好きになってしまい、私はいち子と彼の幸せや全体のバランスを考えて距離を置かざるを得なくなってしまうのである。
彼は、熱く柔軟さに欠けるところはあったが、人を裏切るような人間ではなかった。私が二人をしっかりと祝福しさえすれば、私が失うものは最小限で済むのだ、、、私は経験的にそれを知っていた。
のような妄想をしたことがないこともなかったが、実際には、いち子は彼の事を自分の手下(まあ私だ)の手下くらいにしか見ておらず、そんなことには至らなかった。
トリオの良好な関係はしばらく続いたが、やがて青天の霹靂が私を襲った。
いち子が私を避けるようになったのだ。
(続く)
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参考)
最後まで歌いたいけど(普通の人には)歌えない。
そのもどかしさが罪。