【続続々】私のハートは菩薩モーション

 今はどうか分からないが、高校3年の夏にはほとんどの生徒が部活動を引退、秋頃からは受験最優先モードとなる。出席日数に問題のある生徒以外は、積極的に登校しなくてもよくなり、この頃から、早々に指定校推薦を決める人、就職する人、粘る人、志望校に受かった人、諦めた人、、、人との間に見えない壁があちこちに生まれていたように思う。

 菩薩様は秋に、私は冬にはそれぞれ進学先が決まっていた。しかし、恋の進路は工事が止まったまま、その先に道は延びていなかった。そこで焦って行動に出た結果は、初回に書いたとおり。 

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 菩薩様には、クラス違いの仲良し同級生「ANさん(仮名)」がいた。そのANさんこそ、“奇跡的に恵まれた共通の友人”で、私とはずっと同じクラス。ただし、高校三年間、私の菩薩様への気持ちは知らなかったはず。もちろん、あの日の行動も。(私がそう思っているだけかも知れないけれど…。)

 “あの日”からしばらく経ったある日のこと、ANさんが、私に「○君って、モテるんだぁ~?」と冗談交じりに話しかけてきた。

私>「な、なにが??」

A>「私の知ってる子で○君のこと好きって子がいて、私はさー、告白してみたら?っていうんだけど、遠くから見てるだけでいいって言うんだよ。かわいくない?」

私>「(あばばばばば!!)」

A>「○君さえよければさー、その子に言ってみるけど、どう?」

私>「え?誰なのその子?俺の知ってる子?」

A>「知ってるよ。」

私>「(あばばばばば!!)え!誰なん?」

A>「教えへーん。」

 みたいな青春のやりとりが何度か続いたあと、ついにその子が誰なのかが明らかになった。

 そう、その子は、なんと私の菩薩様だったのだ!!!

 …みたいな展開を期待してくれている読者の方はいらっしゃいませんか?実際のその子は、部活の後輩だった。2つ下の。

 正直言って、私はその子の気持ちに全く気付いていなかった。運動が得意そうではないのに、いつも頑張っているなぁくらいの印象はあったが、話をした記憶などはあまりなかった。

 それと、これも正直に申し上げるが、私には菩薩様以外に、中学の時から憧れというか、気になっていたというか、、好きだったSTという子が同じ部活にいたので、後輩、、しかも1年女子と仲良くすることなど考えられなかったのである。ちなみにこのSTさんには、高1のときに告白してフラれている。

 ついでに申し上げると、その告白に至った経緯というのが、同部員の友人2人に「あいつ、好きな奴おらんし、お前ならいけるって!」などとそそのかされたからであって、見事にフラれた際のやりとりは以下のような感じだった。

S>「ごめん。わたし、クールな人が好きなん。」

私>「クール…?クールって何?そういう人、誰かおるの?」

S>「うん、おるよ。TKさん。」

私>「え?TKさんって、あのTKさん?」

 TKさんは、同じ部の1つ上の先輩で、部活は常にサボりがち、制服の第1ボタンはいつも外していて、少し色を抜いたさらりとした髪、言葉数は少ないけれど笑いを誘う天然さを持ち、足はそんなに速くなくて、顔は小室哲哉だった。

(あー、TKさんかー、、、なら仕方ない、、か。)

 実際、TKさんは他の部員にも好かれていたし、私も優しくしてもらっていたから。

 あの頃の1つ上は、すごく大人に見えて、どうして勝てないのかと悔しかったのを覚えている。 もう一つ辛かったのは、その後STさんが、クールとはほど遠い男、しかも同学年の同部員と付き合うことになったことだ。二人は練習中もよくイチャイチャしていた。おかげで高校時代の私は、“クール”という言葉の呪縛から逃れられなくなり、話をしたこともない女子からは、ただの無口で暗い奴と思われるようになっていった。

 そんなこんながあり、高校生活最終盤に初めて“その子”を意識しだした私。この時点では、その子から告白されてもいないのに、菩薩様のことは諦めて、付き合うか?もし、付き合っても春になれば離ればなれ、いきなり遠距離恋愛だぞ。いや、まったく会えない距離ではないし、何とかいけるのでは?付き合ってから始まる恋もあるかも知れない、、、

 妄想上の私は、完全に主導権を握っていた。そしてバレンタインデーが迫ったある日、ANさんが私にその子からの手紙を届けてくれたのだった。細かい内容は忘れたが、「会えませんか?」的なことだったと思う。

 「…チョコだ。」

 あなたもそう思うでしょう?

 手作りチョコレート、告白を添えて。

 (続く)