【続】私のハートは菩薩モーション

(↓前回記事) 

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 大好きなはずなのに、恋愛対象ではなく崇拝対象になってしまう、それが菩薩モーション。

 かどうかは知らないけれど、心底付き合いたいという気持ちはなかったように思う。付き合えないのは構わないが、会えないのは困る。学校なんて、好きな子に会えるから行くんじゃないの?

 寅さんが満男に言うところの、燃えるような恋、大声出してのたうちまわるような恋、恥ずかしくて死んじゃいたいような恋ではなかった。せいぜい、あとからアクセス狙いでブログに書いてしまうような恋だ。

 正直なところ、一目惚れと言いながら一途に想い続けたわけでもなく、他の子を好きになったりもした。あの日の行動は、恋より焦りからのことだったのだろう。

 今回、気付いたことがある。一目惚れから始まった高校生活だったが、校内での彼女と思い出は、ない。ないのだ。これは自分でもショックだった。会えば話ができるくらいの仲にはなっていたのだが、笑い合ったとか怒らせたとか、そういう記憶がない。今でも言えることだが、「好かれたい・伝えたい」よりも「嫌われたくない・知られたくない」気持ちで接していると、結局何も残らないように思う。

 なので、これから書くことは彼女との思い出ではない。

 あれは高校2年の時だったか、生徒会の企画で『ミス・ミスターコンテスト』が実施されたことがあった。文化祭の時に、校内一の美男美女を全校生徒による投票で決めるという、今ではアウトなイベントである。時代的に、まだまだミスコンブームは残っていたし、先生的にも生徒会の意思は最大限尊重する決まりであったので、このイベントの問題性を指摘する人はほぼいなかったように思う。しかし、私には大問題であった。

 「菩薩様がミスになったらどうすんだよ。」

 

 彼女は私の菩薩様ではあったが、他の者は彼女の存在に気付いていない、はずであった。実際、同級生から彼女の話を耳にすることはなかった。彼女は、内気でもないが、積極的に人と話したり、行動したりするタイプではなかった。部活動などで目立った活躍をしていることも、ドジっ子眼鏡ちゃんでもなかった。しかし、すらりとした長身に、風に揺らぐセミロング、媚びない顔立ちは、いつも私の鼓動を速めた。

 我が校の「ミス・ミスターコンテスト」は、希望者によるエントリー制ではなく、全生徒に票が配られ、意中の男女1名ずつを記入し、投票箱に入れることになっていた。つまり、私を含め全生徒が実質的にフルエントリーされる仕組みであった。

 これは危険だ。これを機会に菩薩様の存在が他の者たちに知れてしまうかも知れないではないか。こういうイベントは、出たがりが勝手にやっていればいいのだ!入れるな!入れるなよ、彼女には絶対に入れるんじゃないぞ!

 生徒会の説明によると、全体の順位(得票)は公表しないルールになっていたが、ちょっと待って欲しい。集計を担当をする生徒会の役員は、結果の全てを把握しているではないか。ということは、「あれこの子、あんまり聞いたことないけど、けっこう票入ってない?」「ああ、そう言えば、この子良いよね!」みたいな話になって、その情報が生徒会の役員やその一部のお友だちに漏れて、とんでもない奴が菩薩様に告白とかしたらどうすんだよ。利権許すまじ! 

 

 本当に、バカそのものなのだが、私は投票用紙に誰の名前を書こうか真剣に悩んだ。悩んだ末に、“ミス”の欄には彼女の名前を書いた。自分のこういうところを直したほうが良いと今でも思う。

 しかし、本当に悩んだのは、“ミスター”の欄である。このイベントは、「ミスター/ミス」に選ばれると、校内一の理想のカップルとして扱われることになっていた。つまり、他の男の名前を書けば、菩薩様との交際を認めてしまうことになる。菩薩様との交際を許されるのは、お釈迦様だけである。適当な名前を書くわけにはいかぬ…。いかぬのだ!

 

  結局、誰の名前を書いたのか。実ははっきりとは覚えていない。曖昧ではあるが、自分の名前を書いて1票だった奴がいるなんて、みんなに広まったらどうしようと随分心配していた記憶があるので、もしかしたら、私、入れちゃったのかも知れない。

 

(つづく)