酒と泪とアセトアルデヒド【4】

 あなたに好きな人がいるとする。

 そのことを一番先に誰に伝えるべきか。

 それは、あなたの好きな人、その人である。

 

 私のバイト先(カラオケボックス)には、アルバイトの主のような男性がいた。

 昼間も別のところで仕事をしていると言っていたが、決まった会社では働いていないようだった。

 年齢は20代半ば~後半くらいだったと思うが、愛車は白いトヨタマークⅡ、いつもセカンドバッグを小脇に抱え、前髪には軽くパーマを当てているという風貌。口癖は「マコンデ!」その意味は今もわからない。

 若干の胡散臭さは漂うものの、この店の最後のレジ締めは、店長以外では主にその人が担うなど、バイト先では一目置かれた存在だった。ここでは、イニシャルKさんとしておく。

 私は新人バイト時代から、Kさんに仕事を教えてもらう機会が多く、慣れてくるとバイト先のピラフをくれたり(アカンけど!)、休みの日には遊びに連れて行ってくれたりもするようになった。

 ある日のこと、私とKさん、別の先輩と3人でバイト先の近くにある焼き鳥屋に行った。焼き鳥素人だった私は、「ハツ」や「シロ」、「ホトケ」とはいったいどこの部位のことなのかを彼らから教わった。

 そしてもう一つ、教えてもらったことがある。

それは、

 「いち子、いけるって。」

である。

 大体、若い者同士が集まれば、惚れた腫れたの話になるのは必定。酒が入れば加速するのも必定。話はバイト先の女性たちのことになり、誰がどうとか、誰とこうとかの話になった。Kさんらは、

 「えー!いち子のどこがえぇの??」

 「あいつもお前のことを気に入ってるから、付き合えや!絶対いけるって!」

 などと、悩める私を随分と盛り上げてくれたのだった。 

  

 そうなのだ。その後の私は、いち子との運命を賭けたウォッカ勝負に挑むことになるのだが、それは半ば仕組まれた筋書きなのだった。そして、自信満々で彼女に告白し、散ったのだった。

 哀れなへたっちょ。

 馬鹿なへたっちょ。

 

(続く)

 

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参考)


タッチ 最高の瞬間 #17 HD Touch Best Mooments part 17

 回れ回れ言うたん誰や。

 

酒と泪とアセトアルデヒド【3】

 「…好きや。」

 だったか、もっと軽い調子だったか、もう言い回しは忘れたが、私は酔った(勝利の)勢いもあって、いち子に告白をした。

 彼女のわがままな言動も、読めない行動も好きだったし、何より一緒にいて楽しかった。彼女も私との居心地の良さを感じていると信じていた。ただ、当時の私は、男は女に負けてはいけないみたいな考えがあった。それは、精神的に優位に立ちたいという現れだったのだろう。だから、告白はいち子を酒で負かしてからでなければならなかったのだ。バカ。

 

 いち子の答えは冷静だった。

 「へたっちょは、酔ってるからそんなこと言うんやん。」

 

 「そんなことないって!」

 何度言っても彼女にかわされるだけだった。確かに酔っているけれど、これは前から決めていたことだし、決して嘘じゃないのに。

 

 私は、フラれたのだろうか。いや、違う。

 いち子は、私の告白の仕方が気に入らなかったのだ。いつもとちょっと違う夜のへたっちょへの照れもあっただろう。私は知っていた。普段、強がってはいるが、彼女にもそういう可愛いらしいところがあるのだ。

 

 後日、バイトで彼女と一緒のシフトに入った時、私はいち子を厨房に呼んだ。

 

 「いち子、今日はちゃんと素面やから、、、」

 

 そして、2度目の告白をした。

 キミはこれを待っていたんだろう?

 

 「嬉しい。けど…」

 

 「けど?」

 

 「好きって言ってくれるのは嬉しいけど、付き合えへんわ。」

 

 「…え?」

 

 1度目の告白からの私は、心理学でいうところの「正常性バイアス」の状態だった。

正常性バイアスを知っていますか?「自分は大丈夫」と思い込む、脳の危険なメカニズム - 日本気象協会 tenki.jp

 そこから覚めた今、迫りくる現実に対応を迫られた。 

 必死になってダメな理由を聞いてみたりもしたけれど、どうなるものでもなかった。現実を認めるしかない。今は退け、退くのだ。

 私は、自分の心のノートにあった「日本三大“おことわり”」(=いいひと・友だち・今のままでいよう)に新たにもうひとつ、

・好きって言ってくれて嬉しい

を加えた。

 

 結果はフラれたけれど、この厨房でのやりとりを知らない人から見れば、離婚した後もコンビを解消しなかった「唄子・啓介」の夫婦漫才のように、しばらくの間、二人は何もなかったかのように過ごした。


唄子・啓助のおもろい夫婦 第532回

 

 恋愛に限らず、私は落ち込んでも家で一人酒はしない。代わりに音楽を聴いた。

 特に眠れない夜には、布団に入り明かりを消し、静かにHolly Cole のアルバム『Girl Talk』を聴いた。何を歌っているのか、さっぱりわかってはいなかったが、私の子守唄アルバムだった。繰り返し聴いているうちに、気がつけば時計が随分と進んでいたときのことは今も忘れない。

 

 さて、酒と泪はこれくらいにして。

 ここからがアセトアルデヒドだ。

 (続く)

 

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 参考1)

 この曲を聴いて、声を聞きたくなった人のことをあなたは愛しています。


Holly Cole Trio - Calling You

 知らんけど。

 

参考2) 

 これは再発盤。(※Calling Youは別アルバム『Blame It On My Youth』に収録)

ガール・トーク

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酒と泪とアセトアルデヒド 【2】

 私が働いていたカラオケ店(カラオケボックス)は、基本的に社員は1人(店長)、あとはバイト(パート)が曜日や時間帯によって2~4人程度入る体制だった。時給は780円~900円くらいだったか。

 勤務時間は、昼・夕方・深夜のシフト制だった。私は、夕方勤務が多かったけれど、学生の一人暮らしだったので自由の利く存在として重宝されていたように思う。

 入った頃は、バイト同士の仲も良くて、先輩もみんな優しかった。バイト終わりにそのまま数人で店内のカラオケ部屋で飲み会をしたりもしていた。今思えば、あの気楽さは当時の店長さんの気遣いがあってこそだった。今頃どうしているだろうか。そう言えば、あの店長さん、歌がすごくうまかったな。50代(推定)でMr.Childrenの『Tomorrow never knows』を見事に歌いきっていた。

 ちなみに、その頃の私は、電気グルーヴの『N.O.』がキーの限界だった。石野卓球の歌唱力は侮れないと今も思っている。

 

 いち子はお酒が強かった。彼女が最も好きだったお酒が、VODKAだ。

 いち子も含めたバイト終わりの飲み会は度々あったのだが、慣れない頃、生まれも育ちも牧歌な私は、VODKAの読み方も飲み方も知らず、彼女の挑発に乗って無茶して飲んでは潰れた。

 そしていち子はそんな私に、

>ぜんぜん飲めへんやん!へたっちょ、ダッサー!

と上から罵声を浴びせるのだった。

 

 実は、私はお酒には自信(過信です!)があった。少なくとも女の子より先に潰れたことはなかったので、悔しくて彼女に何度もサシで勝負を挑んだ。そして、敗れ続けた。

 勝てば官軍、負ければへたっちょ。私はバイト先の先輩たちにまで、しばらくの間「へたっちょ」と呼ばれ続けた。

 

 当時ウォッカをどうやって飲んでいたのか、あまりよく覚えていないが、モスコミュールやウォッカリッキー、ウォッカライム、ブルドッグなどカクテルが中心だったように思う。さすがに、ショットグラスでストレート飲みのようなことはしていなかったはずだ。覚えてないから知らんけど。

 運動部出身の私は努力を重ね、やがてウォッカに負けない体になっていった。まるで消毒液のようだったあのウォッカ独特の臭いが、やがてはフローラルの香りのように感じるのだから不思議だ。今ならば、努力と書いてバカと読むだろう。

 そして、ついにその日が来た。

 …勝った。

 私は、いち子に勝ったのだ。

 これまで、常に勝ち気な物言いだった彼女が、もう飲めないと言って勝負を棄てたとき、私の中で何かが変わった。私はもう、へたっちょではない。うまい棒になるのだ!

 私は、温めていた計画を実行することにした。これまでの努力(バカ)はそのためのものだったのだ。

 

 告白である。

 

(続く)

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 参考1)


Denki Groove - N.O. [Live at FUJI ROCK FESTIVAL 2006]

 私もこのどこかにいたはず。

 

参考2)


電気グルーヴ - N.O. 【T.V. Program】

 今ならわかる。適材適所ってこういうこと。

酒と泪とアセトアルデヒド 【1】

  私がカラオケ店でアルバイトをしていた頃、店内にはよく安室奈美恵の『Body Feels EXIT』が流れていた。

 ♪ここまでどんな  道を歩いて あなたにやっと たどり着いたかを

 説明しよう。口から入ったアルコールは胃から20%、小腸から80%が吸収され、その大部分が肝臓で処理される。肝臓内では、まず、ADH(アルコール脱水素酵素)やMEOS(ミクロゾームエタノール酸化系)により分解され、悪酔いや頭痛、動悸の原因ともなるアセトアルデヒドになる。さらに、肝臓内のALDH(アルデヒド脱水素酵素)により、酢酸へと分解される。この酢酸は血液により全身へめぐり、水と二酸化炭素に分解され、汗や尿、呼気中に含まれて外へ排出され、膝を抱えて動けなくたって、Body Feels!※一部 アサヒビールHPより抜粋

 というわけで、その頃私は、ある子に恋をしていた。

 田舎からで出てきた青春バイト生にはよくある話だ。

 彼女の名前は「いち子」。いいちこではない。仮名だ。

 いち子は、いつも自分のことを「いち子」と呼んでいた。

 そして、彼女は私のことをいつもこう呼んでいた。「へたっちょ」と。

 いったい私の何がへたっちょだというのだ。

 さて。

 あなたは大塚寧々を知っているだろうか。家具ではないほうの寧々だ。

 いち子は、見た感じ大塚寧々に少し似ていた。

 どれくらい似ていた?それは、あなたが作ったマトリョーシカ人形の表情がたまたま大塚寧々っぽくて、なんか似てるねって言ったら、いや全然似てないって10人中9人が否定したってBody Feelsだ。

 いち子は、当時短大生。私は知らなかったが、お嬢様学校として有名な学校とのことだった。実際のところ、お父さんはアパレル会社を経営していて、自宅は鉄筋コンクリートの3階建てだと言っていたから、まあ世間的には“いいとこ”のお嬢様なのだろう。本人は否定していたが。

 ある日、いち子は、バイトのみんなに短大のクラスメイト?の集合写真を見せた。

い>「見て!ほらこれ!いち子!これはめっちゃ友だちの◯◯!めっちゃかわいいやろ? いち子もかわいい!」

皆>「(…お、おぅ。。)かわいい、かわいい。」

い>「むふぅ。でもいち子なんでこんなに足太いん?なんでなん?へたっちょなんとかして!」

私>「まあ、しゃがんでたらふつう太く見えるし、こんなもんちゃうかな。」

い>「もぉ!ちゃんと見てんの?ほらこれ!ちゃんと見て!(ここで自分の脚を出す)」

私>「まあ確かに細いとは違うけど。」

い>「なんなん?めっちゃ失礼やわ!」

 だいたい、いつもこんな調子だから、バイト先のみんなはいつも半ば呆れていたが、私はそれまで生きてきた中でこういうタイプの人は、テレビかマンガの中でしか見たことがなかったので、彼女とのやりとりは嫌いではなかった。

 最初は好奇心だったとしても、相手役を演じているうちに本当に好きになるというのは、実際にあるのかも知れない。

 【続く】

 

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参考)


安室奈美恵  カラオケ  Body Feels EXIT

 これを今、膝を抱えて眺めている自分から抜け出したい。

ノンアルコールビールとストロングゼロ

 野菜、果物、豆腐、魚、肉、

 在庫がなければ調味料

 最後は、乳製品とパン。

 というのが、スーパーでの私のほぼお決まりコース。

 私は、普段お酒を買うことはないので気づかなかったのですが、先日缶チューハイが98円で売っていて一句詠んでしまいました。

 気がつけば 水より安い 缶チューハイ

 しかもアルコール度は7%とか9%ですから、缶ビール1.5本分以上。安くてたくさん飲める居酒屋さんのことを「千ベロ」だなんて言いますけれど、これはもう世の中「百ゲロ※」の時代に入っているのかも知れません。※百円で吐けるくらい飲めるの意

 

 ディスカウントストアやコンビニが世に出だして、古くからの酒屋さんの棚がスカスカになって久しいですけれど、近頃はホームセンターやドラッグストアが酒類を目立つ店に並べるのが普通になってきています。

 幸い、私には家呑みの習慣はありませんし、今はもう何年もまともに呑んでいませんので、過去にお酒で数々の笑いあり涙あり説教あり記憶なしの体験をしてきた者としては、本当に狂っているとしか思えない世の中です。

 そう言えば、先日知人が買った「ウメッシュ」を見たらアルコール度7%でした。ウメッシュと言えば、「お酒は強くないけど、これなら…」という建前で手を伸ばすものだと思っていたので、この本気のアルコール度に驚きました。

 

 飲酒運転厳罰化の背景からかノンアルコールビールが次々と出て、個人的にはビールより体に悪そうなこんな飲み物を買ってまでわざわざ乾杯したり酔ったふりしたりする奴らなんてどうかしてると思いながら自分も同じようにグラスを傾ける典型的な日本人な私ですけれども、まあ世の中の流れは公の場でのアルコール摂取を控える方向で間違いはないでしょう。

 実際のところ、特に若者のアルコール離れが進んでいるとのデータはありますし、タバコの次はアルコール類の摂取規制が進むのはもう既定路線。

酒レポート 平成30年 3月国税庁

https://www.nta.go.jp/taxes/sake/shiori-gaikyo/shiori/2018/pdf/000.pdf

と、思っていましたが、実際には酒でもタバコでも税がとれないと困ると考える人が必ずいるので、取れる奴からもっと取ろう作戦が周到に進むだけです。

 

 はっきり申し上げますが、『ストロングゼロ』に象徴される高アルコール・高刺激で低価格の飲み物志向やお手軽宅呑みブームは、乗ったら沈む泥舟です。500ml缶を一人で飲むのが当たり前になったら、引き返すのは簡単ではないでしょう。

 ノンアルコール飲料にしても、あれは“気の利いた”飲み物などではなく、お酒を飲む人を繋ぎ止めるための飲み物です。何事も“もどき”を楽しんでいるうちは、本元を嫌いになることはありません。むしろ、本元への欲求が高まるのが人の性ですから、根本的にはあまり変わらないと思います。

 

 余談ですが、低アルコールと思われがちなリキュール系のお酒(カクテル)は昔から、女性を酔わせるためにあると言われていまして、

 飲んだら乗るぞ 飲むなら乗るぞ スクリュードライバー 

という、やたら1杯目に柑橘系のカクテルを勧めてくる男の心情を詠んだ有名な句があります。ご存知でしょうか。何事も入り口には気をつけたいですね。

 また、男性諸氏におかれましては、いくらハイボールを飲んでもあなたの井川遥さんは現れないことを申し添えておきます。

 

 以上、余計なお世話でしょうが、泥舟に乗ることのないように自戒を込めて。

 今後私がお酒を飲むことがあったならば

 1)安い酒には手を出さない

 2)できればお店で飲む(一人で飲まない)

の2つは最低限守ります。あえて、付け加えるなら、

 3)飲んだお酒の瓶やグラスなどをSNSにアップしない

 4)ウコンの力を信じない

を守ります。

 

 それでは次回、 『酒と泪とアセトアルデヒド』でお会いしましょう。

 

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参考)井川遥が、We 好きぃ。


【CM】サントリー 角瓶 ウイスキーが、お好きでしょ 2016 井川遥

 「おい!瀧!!しっかりしろ!!」

 

参考2)安いお酒は不純だから。


霧島酒造TVCM「本格的に飲もう」篇 Drink up ときめきシリーズ

「おい!東!!(お前の嫁さん)だいじょうぶか!!」