酒と泪とアセトアルデヒド 【1】

  私がカラオケ店でアルバイトをしていた頃、店内にはよく安室奈美恵の『Body Feels EXIT』が流れていた。

 ♪ここまでどんな  道を歩いて あなたにやっと たどり着いたかを

 説明しよう。口から入ったアルコールは胃から20%、小腸から80%が吸収され、その大部分が肝臓で処理される。肝臓内では、まず、ADH(アルコール脱水素酵素)やMEOS(ミクロゾームエタノール酸化系)により分解され、悪酔いや頭痛、動悸の原因ともなるアセトアルデヒドになる。さらに、肝臓内のALDH(アルデヒド脱水素酵素)により、酢酸へと分解される。この酢酸は血液により全身へめぐり、水と二酸化炭素に分解され、汗や尿、呼気中に含まれて外へ排出され、膝を抱えて動けなくたって、Body Feels!※一部 アサヒビールHPより抜粋

 というわけで、その頃私は、ある子に恋をしていた。

 田舎からで出てきた青春バイト生にはよくある話だ。

 彼女の名前は「いち子」。いいちこではない。仮名だ。

 いち子は、いつも自分のことを「いち子」と呼んでいた。

 そして、彼女は私のことをいつもこう呼んでいた。「へたっちょ」と。

 いったい私の何がへたっちょだというのだ。

 さて。

 あなたは大塚寧々を知っているだろうか。家具ではないほうの寧々だ。

 いち子は、見た感じ大塚寧々に少し似ていた。

 どれくらい似ていた?それは、あなたが作ったマトリョーシカ人形の表情がたまたま大塚寧々っぽくて、なんか似てるねって言ったら、いや全然似てないって10人中9人が否定したってBody Feelsだ。

 いち子は、当時短大生。私は知らなかったが、お嬢様学校として有名な学校とのことだった。実際のところ、お父さんはアパレル会社を経営していて、自宅は鉄筋コンクリートの3階建てだと言っていたから、まあ世間的には“いいとこ”のお嬢様なのだろう。本人は否定していたが。

 ある日、いち子は、バイトのみんなに短大のクラスメイト?の集合写真を見せた。

い>「見て!ほらこれ!いち子!これはめっちゃ友だちの◯◯!めっちゃかわいいやろ? いち子もかわいい!」

皆>「(…お、おぅ。。)かわいい、かわいい。」

い>「むふぅ。でもいち子なんでこんなに足太いん?なんでなん?へたっちょなんとかして!」

私>「まあ、しゃがんでたらふつう太く見えるし、こんなもんちゃうかな。」

い>「もぉ!ちゃんと見てんの?ほらこれ!ちゃんと見て!(ここで自分の脚を出す)」

私>「まあ確かに細いとは違うけど。」

い>「なんなん?めっちゃ失礼やわ!」

 だいたい、いつもこんな調子だから、バイト先のみんなはいつも半ば呆れていたが、私はそれまで生きてきた中でこういうタイプの人は、テレビかマンガの中でしか見たことがなかったので、彼女とのやりとりは嫌いではなかった。

 最初は好奇心だったとしても、相手役を演じているうちに本当に好きになるというのは、実際にあるのかも知れない。

 【続く】

 

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参考)


安室奈美恵  カラオケ  Body Feels EXIT

 これを今、膝を抱えて眺めている自分から抜け出したい。