1991年に発売されたTMN(TM NETWORK)のアルバム『EXPO』は、史上最多のウォウウォウが入った名盤である。
TMNにリニューアルした経緯を含めて、『EXPO』がどのようなコンセプトで作られたかについては、メンバー(主に小室哲哉)が話している映像を見てもらえばわかるのだが、要するに「TMNとして(したいこと・できることを)やりきったアルバム」である。
こちらの映像も合わせて見ると更に良くわかるのだが、当時のメンバーの和やかな雰囲気と木根尚登の城島茂感がよく出ているので、できれば見て欲しい。(52分間あるので時間と好奇心のある人に限られるだろう)
TMN(TM NETWORK) - EXPOの世界(full ver.)
この頃の小室哲哉の時代に対する感度と表現への貪欲さは、“TM”の枠に収まらないものへと高まっており、これが彼らの事実上のラストアルバムとなったのも必然であろう。このアルバムには、これまで多くの作詞を担当してきた小室みつ子(西門加里)の楽曲が入っていないことも何やら暗示めいている。
実は、私はCDとテレビの歌番組の中の“TM” しか知らない。アルバム発売後に実施された全国ツアー『TOUR EXPO』の映像も数日前に初めて見たくらいの三流ファンである。
もし当時、このツアー映像のように、ステージを陸上部ダッシュしたり、“ショルキー”でJimi Hendrixごっこをする小室哲哉の姿を見ていたなら、私はきっと「コムロ」ではなく、きちんと“さん”付けをして呼んでいたに違いない。そして、今でもCDの1枚くらいは思い出として持っていたただろう。まあ、どれも姉が買ったか姉とお小遣いを出し合って買ったCDだったのだが。
WILD HEAVEN・CRAZY FOR YOU Ⅲ @TOUR EXPO
このツアーのステージ演出もおそらく多くが小室哲哉の発案によるものであろう。メインボーカルにエンターテイメント性を加えるために、ダンス(&ダンサー)とのシンクロを使うなど、後の1993年に小室哲哉プロデュースでメジャーデビューするtrf(TRF)に通じるものを感じる。
TMNそのものの輝きはまだ充分にあるが、当時30代後半に差し掛かる宇都宮隆にYU-KIのボーカルとSAMのダンスを、木根尚登にDJ KOOのドレッドヘアーとヘッドホンを期待するのはやはり違うであろう。「新春かくし芸大会」の堺正章ではないのだから。
結局この後、宇都宮隆はロックスター、小室哲哉はプロデューサー、木根尚登は山で柴刈にそれぞれ励むことになる。そして、1994年TMNプロジェクト終了を宣言。
これは私の想像に過ぎないが、アルバム『EXPO』を制作していた時には、既にメンバーの間では、これが“TM”最後の作品になると考えていたのではないだろうか。
「TM NETWORK」は「TMN」にリニューアルする前はバンドとしての活動を一時休止していた。個人活動を中心にしていたその期間は、それぞれが自分に向き合い、自分が求めるものを再確認していたに違いない。
アルバムタイトルを「博覧会」を意味する『EXPO』とすることで、メンバーの方向性のばらつきをなるべく“美しく”包み隠そうとした。そう考えると、ひとつの物語ができあがらないだろうか。
つまり、未来的なコンセプトを掲げつつも、同時にこれまで築き上げてきたものを残すにはどうすればよいかと彼らは考えた。本当に未来志向なのであれば、過去を振り返る前提で今を生きる必要はない。評価など気にせず、ただひたすらに前に進めば良いのである。
1958年生まれの小室哲哉(と1957年生まれの宇都宮隆と木根尚登)にとって、「博覧会」と言えば、1970年「人類の進歩と調和」をテーマに開催された「大阪万博」であろう。当時、少年であった彼らはきっと万博に心躍らせた(躍らせる)世代である。
アルバムタイトル『EXPO』には、辞書に載っている言葉の意味以上に、少年時代に持っていた万博への「憧れ」と大人になってから知った「儚さ」の両方の意味が込められているであろう。そして、それは未来に残したい大切な記録(記憶)でもある。
本当はメンバー間の不仲が一番の理由であるのに「音楽の方向性」を解散の理由にするバンドがほとんどとの説があるが、“プロデューサー”小室哲哉がそんなつまらない演出で“TM”を終わらせるはずがない。
バンドとしてひとつの作品にすることは無理だと分かっていても、自身のキャリア、大切なメンバーとの関係、アルバムの作品性、商業的なプロモーション、ファンの反応、、、、など多くのものを守るために彼がまとめ上げた「美しき妥協アルバム」、それが『EXPO』である。
Wikipediaには、
- 1曲1曲が「博覧会のパビリオン」のイメージを持つアルバム。レコーディングしていたスタジオの窓から月が見え、グランドピアノのあるスタジオに月明かりが照らされていた風景を見て「月とピアノ」という裏テーマが生まれた。
とあるが、私は、このアルバムは彼らの「今」をアルバムCDという「タイムカプセル」に閉じ込めたものであり、「月とピアノ」という裏テーマは、月へ帰るかぐや姫のイメージだと思っている。
ナルシスト気味の彼のことだから、かぐや姫は小室哲哉、ピアノはTM NETWORKであろうか。月は時空(=タイムカプセル)である。
歳月や場所は変わってもお互いは時空を越えてつながっている。
もしもう一度キミに出会うならばメビウスの宇宙を越えてKISS YOU。
[ BEYOND THE TIME ] 1988 TM NETWORK
そして、1999年TM NETWORKは再始動する。
こんな物語はいかがだろうか。
______________________
TM NETWORK考(病)これで終わります。
でもたぶんまだ続く…。
発症~【5】まで読んでくれた方、ありがとうございました。
それでは、木根尚登さん作曲の名曲『桜の花の咲く頃に』でいったんお別れです。
作詞は渡辺美里さんです。