受付を済ませてから2時間以上待っている。
手術開始予定時刻はもう、1時間以上前に過ぎた。
聞けば、前の患者の手術が長引いているかららしい。何かあったのだろう。
…私の身にも何かあるかも知れない。
ところでこれは何度目のトイレだろうか。
今日はこんなに水分を摂っていないはずだ。でも出る。
収支マイナスではないか。
私はこのままトイレで立ち枯れてしまうのだろうか。
がんばれドキドキの木。
「尿は心の汗である」
ポカリスエットのキャッチコピーのように言ってみても、潤わない。
手術やん?切るやん?
痛いの、痛いの、どんだけ~。
ドキドキが、尿意が、メランコリックが、
ドラスティックに止まらない。
誰かが私の中でドラムを叩く。
前のめりで、エモく。エモく。エモく。
おトイレで何ccb出すつもり?
Fu-Fu
声がした。
「大変おまたせしました。」
「さあ行きましょう。おトイレは大丈夫?」
看護師に促され、私は行った。
ワンモアタイム、ワンモア直立。
こんなすぐに出るはずもないのに。
でも出るから不思議だ。
最後の用を足し終えた私は、看護師と手術室に向かった。
「うふふ、おまたせしちゃったから、特別に近道♡」
彼女は関係者以外立入禁止のドアを開け、私を誘った。
ここに足を踏み入れた瞬間、彼女と私の関係は変わるのだ。
彼女は私の半歩前を歩きながら、何度も「今日は特別。」と言った。
確かにこの廊下から見る景色は初めての景色だ。
同じ建物も視点が変われば違う建物のように感じる。
二人は「医局室」の前を通り過ぎ、辿り着いた。そこは手術室。
いや、正確には手術前の準備室だ。
錆びたロッカーに間仕切りのカーテン。
隅には割烹着みたいな手術着が置いてある。
古い棟のせいか、天井が迫ってくるようだ。
「はい、ここで着替えてください。」
そうだね。
もう特別じゃないきみがいる。
(続く)
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参考)
C-C-B Lucky Chanceをもう一度 (1985)
Ui‐Ui‐C。
山崎まさよし One more time , One more chance
チャンスをチャンスと気づくのはいつもあとから。
直感で決めたことを楽しんでいる自分に気づく必要はない。
だって幸せだから。